今回の参考資料
抗不安薬とは
抗不安薬という名前から、「不安障害」のための薬剤と思いがちですがそうではなく、内科や外科、外来、クリニックでも使用する汎用性の高い薬剤です。
パニック症、社交不安定症、全般性不安症などを含む疾患カテゴリーである「不安症」に対して第1選択薬は抗不安薬ではなく、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を中心とした抗うつ薬であることには留意したい。※不安症に対して短期的な効果はあるものの、耐性形成のため次第に期待された効果が得られなくなり、高容量・多剤併用の原因になりやすいため。
作用としては「抗コンフリクト作用」「馴化作用(じゅんか)」「自発運動抑制作用」「抗痙攣作用」「筋弛緩作用」などがあり、これらの作用の強弱(力価)と作用時間の長短によって異なります。
抗不安薬の作用
抗コンフリクト作用(抗不安作用)
抗不安薬の強さは、この抗コンフリクト作用が強いかどうかで決められています。
コンフリクトとは「葛藤」という意味。
どうしよう、どうしよう・・・とどちらにするか迷っている状態に抗うわけですから、「どちらにしようか迷ってしまう状況で自分が本当にしたい欲求に、(あれこれどうしようと)迷わず進む効果」と言えます。臨床的には開き直っているような態度に見えます。
馴化作用(静穏化作用)
闘争行動や攻撃性、情動過多、刺激性を抑制する作用。一般的に、筋弛緩作用をきたす投与量よりも少量の量の投与で現れます。
この馴化作用と自発運動抑制作用を合わせて、静穏化作用、鎮静作用、攻撃抑制作用と言います。
自発運動抑制作用(鎮静作用)
運動量を減少させ、活動量を低下させる作用。
抗けいれん作用
けいれんの閾値を高めて、けいれん発作を起こしにくくする作用です。
クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)や、ニトラゼパム(ベンザリン、ネルボン)は抗てんかん薬として用いられます。ちなみに抗精神病薬で痙攣閾値は低下します。(痙攣が起きやすくなる)
タシナプス脊髄反射抑制作用(筋弛緩作用)
筋弛緩作用が強い抗不安薬や睡眠薬はふらつきや転棟の危険性を高めるため、特に高齢者への処方は弱い薬剤か、筋弛緩作用がない薬剤が選ばれています。
睡眠・麻酔・鎮痛増強作用
眠気を催す作用で、睡眠導入作用、催眠作用とも言います。
アルコール離脱せん妄の予防作用
アルコール受容体とベンゾジアゼピン受容体が似たような構造をしているためベンゾジアゼピン系抗不安薬を内服することによってアルコールのようにアルコール受容体を刺激し、偽飲酒状態を作ってアルコール離脱せん妄症状を軽減させます。
せん妄状態にベンゾジアゼピン系の薬剤(抗不安薬、睡眠薬)を単独で与薬するとせん妄状態が憎悪したり、蔓延したりするためリスペリドン0.5〜1mg/日やセレネース5mg/日など抗精神病薬との併用がされています。
健忘作用
この健忘は前向性健忘(服用前の記憶はよく覚えているが、服用後の記憶が障害されている)です
この効果を期待し手術前や外科的処置前に投与することもあるそう
抗不安薬の分類
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
抗不安薬として広く使用されているのがベンゾジアゼピン系抗不安薬です。
ベンゾジアゼピン受容体に作用して上記の作用をもたらします。効果の強弱(力価)と作用時間の長短(半減期)によって分類されます。
不安や不眠の諸症状は中枢神経の過剰な興奮によるものとされています。この興奮を抑制するためには抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強させる必要があります。
ベンゾジアゼピン受容体作動作用はGABAの作用を増強させます。
セロトニン作動系抗不安薬
非ベンゾジアゼピン系抗不安薬
ベンゾジアゼピン系抗不安薬に比べ、抗不安作用は同等で、鎮静作用は弱く、即効性も劣りますが、筋弛緩作用や健忘作用がなく、依存・耐性も生じにくいという利点があります。
ということは・・・
鎮静作用が弱いということは、眠気が起こりにくく、弛緩作用がないということは、ふらつきによる転倒・骨折の危険性がないということであり、高齢者に処方しやすい薬剤になっている。
抗ヒスタミン系抗不安薬
非ベンゾジアゼピン系抗不安薬
抗ヒスタミン作用による、視床、視床下部、大脳辺縁系といった中枢を抑制する作用があり、それが臨床的に抗不安作用をもたらします。鎮静作用が強く、それを期待して処方されることもあります。
抗コリン作用あり。
禁忌
急性狭隅角緑内障には禁忌です。
抗不安薬の副作用
全てのベンゾジアゼピン系抗不安薬に以下の5つの副作用が起こる可能性があります。
眠気・ふらつき・転倒
比較的多くみられます。
「眠気によってふらつく」と思われがちだが、眠気は催眠・鎮静作用から
ふらつきは筋弛緩作用からくるもので、
眠くならないのに体の力が抜けることもあります。
筋弛緩作用は指先を使った動作にも影響を及ぼすので、字を書いたり箸を握ったりにも支障を生じます。
依存・耐性
ベンゾジアゼピン系抗不安薬(睡眠薬も含む)は基本的に全て依存性のある薬剤で、大量連用により薬物依存を生じることがあります。
依存性=常習性ともいい、薬効が切れると一気に不安や焦燥感が高まってしまうため薬剤が手放せなくなる現象で、
耐性は効いた感じが薄れていき容量がどんどん増えていく現象です。
睡眠薬についても別記事に書いているので覗いてみてください。
離脱症状
一般的に血中濃度半減期の5〜6倍の時間を経過したした頃に現れ始め、発症後数日で症状のピークを迎え、数日から数週間をかけて症状が消失していきます。
短時間型で力価が高いほど離脱症状の頻度が高く、症状も重く
長時間型で力価が低いほど離脱症状は起こりにくいとされています。
離脱症状は薬剤の作用のちょうど裏返しの症状として現れます。
急性不安症状
「心臓がドキドキして口から飛び出しそう」「喉が詰まりそうで呼吸ができない感じ」「ガタガタと足が震える」
といった訴えをします。
不眠・悪夢
ベンゾジアゼピン系の薬剤による睡眠はレム睡眠(夢を見る睡眠)を減らし、それ以外の浅い睡眠を増やします。
薬剤を中断すると反動で不眠になることはもちろん、特にレム睡眠が増加することで夢がより鮮明になり、悪夢を見るようになったり、頻回な中途覚醒が増えるといったことがあると言われます。
侵入的記憶
何年もの間考えたり、思い出したり、会ったこともない人物や情景などの記憶が突然鮮明に思い起こされる侵入的記憶が起こることもあります。
しかも、その記憶がまるで強迫観念やフラッシュバックのように繰り返し現れ、思考を妨げます。
感覚過敏・幻覚
あらゆる感覚器官の知覚の感度の増大
- 知覚刺激に対する感受性:小さな音がうるさく感じる、自分の心臓や脈の拍動が聴こえる、普通の食事が異常に不味く感じる、皮膚に虫が貼っているように感じる
- 感覚変容:天井が低く迫ってきているように感じる
- 身体感覚の変容:足を鉄骨が入った棒のように感じる
- 幻覚・錯覚:幻聴や小動物幻視
離人症・現実感の消失
「自分が自分じゃない感じ」「見えるもの聞こえるもの全てにベールがかった感じ」
などの離人感や現実感の消失などを訴えます。
抑うつ・攻撃性
筋肉症状
反動で筋緊張がみられます。
後頸部の筋緊張は頭痛を
表情筋の筋緊張は無表情や仮面様顔貌を
眼球周囲の筋緊張は霧視や複視、
無意識の筋緊張で歯を食いしばっていると、顎や歯の痛み
として訴えられることもあります。
身体感覚の異常
ちくちく、びりびり、ぞわぞわ、熱感、冷感、掻痒感など
てんかん発作・けいれん
奇異反応(精神興奮、錯乱など)
抗不安薬は時として、本来期待される作用とは逆の作用の亢進が見られることもあります。
特に子どもや高齢者に多いとされています。
呼吸抑制
全身状態が低下した高齢者に用いた場合、呼吸抑制が現れることがあります。
呼吸抑制は呼吸回数の減少(10回以下/分)として観察されます。
特に静脈内投与によって生じやすいが、高齢者では経口投与によっても起こることはあるので注意は必要。
深刻な場合はベンゾジアゼピン系拮抗薬の「アネキセート(フルマゼニル)」0.2mgを静脈内緩徐投与することで改善することができる。4分以内に望まれる覚醒状態が得られなければ0.1mg追加し投与。以降必要に応じて1分間隔で0.1mgずつ増量、総投与量は1mgまで。